疲労の原因とメカニズム



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疲労の根本原因は活性酸素

 
ここでは最新研究による疲労のメカニズムをお話したいと思います。

乳酸は疲労の原因ではない

少し前まで、筋肉痛や疲労は運動や労働の結果、身体にたまった乳酸がもたらすものとされていましたが、今ではそれは誤りであると否定されています。

乳酸は運動の際に筋肉でブドウ糖が使われたことにより産生されるものですが、乳酸は短時間で消失するものであり、乳酸消失後は乳酸が原因なら疲労感は消えるはずですが、疲労感は残ります。

そして乳酸はエネルギー源としても再利用されていることがわかり、この筋肉疲労・筋肉痛の乳酸説は現在では完全に否定されています。

それだけではなく、乳酸は血管新生や傷の修復促進、ミトコンドリアの新生、遺伝子発現調節などの機能もあり、むしろ有用な成分であるともわかってきています。


疲労はミトコンドリアの産生するエネルギーが不足するという説


細胞の小器官であるミトコンドリアは細胞内で、ATP(アデノシン三リン酸)を作り出します。

このATPは、細胞の増殖や筋肉の収縮、代謝などに使うエネルギーを供給するために必要な化合物です。

このミトコンドリアの機能や数が低下すると、体に必要なエネルギーが供給できず、倦怠感を感じるというわけです。

このミトコンドリアは30代以降減少すると言われ、年齢を重ねるとスタミナがなくなったり、疲れやすくなる原因の一つとして考えられています。

このミトコンドリア内でエネルギーの元であるATPを作り出す代謝回路がTCA回路(クエン酸回路)と呼ばれるものです。

この回路において、ATPはビタミンB群の力を借りなければ多くのATPを産生することができません。すなわちエネルギー源を生み出すことができないのです。

それで多くの栄養ドリンクや疲労回復を謳った薬剤にはビタミンB群が入っているのです。

ちなみに疲労回復薬として有名な武田製薬のアリナミンはニンニクの研究から開発された薬品です。

これは、ビタミンB1と同様の効果を持ちながら、通常のビタミンB1より吸収されやすい形でのビタミンB1誘導体「フルスルチアミン」が入っています。

このミトコンドリアはATPを作るために酸素を消費しますが、その一部が細胞に有害な活性酸素となり、その活性酸素の影響を自ら受けてしまうものが、ミトコンドリアというわけです。

したがって、激しい運動や労働や強いストレスなどは大量の活性酸素を発生させ、ミトコンドリアもダメージを受け、機能低下を招き、疲れの原因になります。

これは栄養学に基づいた考え方ですが、ただし、倦怠感を感じるのは、すべてこのミトコンドリアの産生するエネルギーの不足ということだけでは説明できません。

なぜなら、ビタミンB群などの栄養素が不足していないにもかかわらず、慢性疲労に悩む人も多いという実態があるからです。

つまり、「エネルギー不足で元気がでない」、ということと「疲れ」は同じではなく、また違った要因があると考えられるのです。




疲労は活性酸素による細胞のダメージとその炎症が原因

現在では運動や労働による活性酸素の発生とそれにともなう炎症が疲労を引き起こすという考え方が主流となっています。

疲労感は、私たちに休息を要求し過剰な活動により体が疲弊してしまうのを防御するための重要な生体警報(アラーム)の一つです。

疲労感はこれ以上動くと体が持たないから、動くのをやめなさいという脳からのサインなのです。

痛み・発熱・疲労感は体を守ろうとする三大生体アラーム機構ですが、痛み、発熱のメカニズムがかなり解明されているのに対し、疲労に関しては、これまであまり解明されてきませんでした。


最新研究による疲労のメカニズム
東京慈恵医科大疲労医科学研究センターの研究

東京慈恵医科大学の医科学研究センターでは、疲労に関しての分子機構の解明に取り組んでおり、その結果、そのメカニズムがかなり解明されました。

実は、疲労のメカニズムはこれまで言われてきた乳酸の蓄積という単純なものではなく、意外に複雑なもので、その解明にも時間がかかりました。

たとえば、疲労はタンパクが関わっているということはわかっていたのですが、疲れに伴って変化するタンパクだけでも5000以上もあり、特にそこで疲労に関係するタンパク分子を特定し解明することは困難でした。

慈恵医大では、疲労にともなって増殖するヒトヘルペスウィルス6 (HHV-6)が、疲労によって再活性化するという現象の研究から、その原因となる一連のタンパク質(疲労因子FF:Fatigue Factor)の特定に成功したのです。


疲労因子FF(Fatigue Factor)の発見

これまで、がんなどの研究から、疲労すると細胞から炎症性サイトカインが放出され、それを脳が感知し、疲れを感じることはわかっていましたが、疲労して炎症性サイトカインが放出されるまでのメカニズムが不明だったのです。

このメカニズムをあきらかにしたのは、上記の慈恵医大の研究グループです。

この研究グループの近藤一博教授は、運動や労働の負荷の結果、血液中にある種のタンパクが増加することを発見しました。

彼は、マウスを使っての疲労の実験を行ったのですが、その実験では、徹夜や激しい運動の後のマウスにはこのタンパクが通常の3~5倍も増加していることがわかりました。

そこでこのタンパクを抽出し、元気なマウスに投与したところ、その元気なマウスはすぐに運動能力が低下してしまったのです。

したがって、このタンパクは疲労の原因物質の一つであることがわかり、これを疲労因子FF(Fatigue Factor)と名付けました。

さらなる研究により、この疲労因子FFとは、リン酸化eIF2α(リンさんか、イーアイエフツーアルファ):真核生物翻訳開始因子αであることがわかったのです。

このリン酸化eIF2αは細胞内のメッセンジャ-RNA(mRNA)を通してリボソームにタンパクATF4を作らせる機能があります。

そしてこのタンパクATF4のはたらきにより、炎症性サイトカインが放出されるあることがわかったのです。

すなわち、老廃物を感知して増加したリン酸化eIF2αによりメッセンジャーRNA(mRNA)を通して、タンパクATF4が作られ、これにより細胞から炎症性サイトカインが放出され、それを脳が感知して疲労感をもたらしていることがわかったのです。

以下に、この研究をもとに疲労のメカニズムをまとめてみると以下のようになります。


このメカニズムをもう少し詳しく解説してみます。

まず最初の原因として、運動や労働などの負荷、あるいはストレスによって、活性酸素が発生し、その活性酸素により細胞や組織がダメージを受け老廃物が排出されます。

この老廃物がシグナルとなり、リン酸化酵素のはたらきにより、前述したタンパクである疲労因子FF(Fatigue Factor)であるリン酸化eIF2αが増加します。

このリン酸化eIF2αはタンパク質合成のための情報を持つメッセンジャーRNA(mRNA)を通して、リボソームにタンパクATF4を作らせ、このタンパクにより炎症性サイトカインと呼ばれる生理活性物質が細胞から放出されるのです。

この炎症性サイトカインが血流に乗って脳に疲労のシグナルを伝達し、脳の前頭眼窩野(ぜんとうがんかや)の部位がこのシグナルを感知し、疲れを感じさせるのです。


事実、アメリカのスタンフォード大学の臨床試験では、ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)患者だけで調べると、ME/CFSの症状の重篤度に応じて17種類のサイトカインの濃度が劇的にが変化していることが分かりました。

この17種類のサイトカインのうち13種類が炎症を促進するタンパク質であることも分かりました。

以上のことから、慢性疲労は、炎症反応がおさまらない状態とも考えられます。

通常の炎症性サイトカインは通常は免疫細胞から出るのですが、最近の研究では、炎症をもたらすサイトカインは、免疫細胞だけでなく傷害を受けた組織からも直接放出されていることが確認されています。

一方で疲労で傷ついた細胞の修復を促進させるタンパクも存在し、疲れとともに増加することがわかり、疲労回復因子FR(Fatigue Recovery Factor)」と呼ばれています。

このタンパクも、疲労因子FFと同じ、東京慈恵医科大学の近藤一博教授らの研究グループが発見したものです。

この疲労回復因子タンパクFRもさらなる研究により、上記の「リン酸化eIF2α」から脱リン酸化酵素による生成される脱リン酸化「elF2α」であることが判明しました。

この回復因子FR(elF2α)は、軽い運動や十分な休息によって、より効率的に増えると考えられていますので、毎日の軽い運動や十分な休息は疲労回復の上でも重要です。

また、加齢とともにこの反応性は低下し、修復できる細胞が減っていきます。

それ故年齢を重ねるとダメージを受けた細胞の数が増え、倦怠感が抜けにくくなると考えられています。

疲労とマクロファージの関係


加齢と共に疲れやすくなるのはマクロファージの能力の低下も関係しているといわれています。

加齢とともに、体の老廃物を貪食するマクロファージの能力が低下し、食べきれない、すなわち処理しきれない状態になることが増えてきます。

マクロファージによって処理しきれなかった老廃物は常に細胞を刺激し、炎症性サイトカインを放出させます。一方、マクロファージは老廃物を貪食する過程で消化酵素をまき散らし、正常細胞へダメージを与えます。

マクロファージからの消化酵素でダメージを受けた細胞や、老化した細胞は炎症性サイトカインを放出し、炎症状態を作り出しやすいということも発見されています。

したがって、年齢を重ねると慢性炎症が起こりやすくなり、その炎症にともなって、倦怠感も長引くというわけです。

加齢による炎症を文字通り火事にたとえるならば、体の中の火が、燃え切らないでいつまでも、ブスブスと不完全燃焼をしているような状態でしょうか。

ですから、このマクロファージによって処理できないほどの労働やスポーツをすれば、処理し終わるまで、炎症性サイトカインは出続けるということになります。

したがって、このマクロファージを活性化させるということや、免疫細胞を刺激する老廃物をいかに除去するかということが、疲労軽減には重要ということです。

次のページでは疲労のメカニズムがわかったところで、その回復のために必要な対策について説明していきます。

疲労労回復のための対策
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